イマジネーションC 息を吸って吐くだけのことが、こんなに難しいだなんて思いもしなかった。 呼吸の度に全部が重たくなっていく気がする。 肺へ空気を押し込むと露になった胸が膨らむのが視界に入って、単純な動作すらまともに出来ない。自然、体のほとんどを押し殺す破目になってしまった。 緊張のあまり指先の感覚がない。 足は痺れていた。 耳の奥のほうで、どくどくと血が流れる音が響く。 置き場のわからなくなった両手は、とりあえずあまり見られたくないお腹を匿う事に使っていたのだが、予想と食い違い何も言われなかった。 長い睫毛を伏せながら、精市くんがシャツのボタンをゆっくり外していく。 かすかな衣擦れの音、どんどん涼しくなる胸元と、異様としか言いようがない現状に、体の底を掻き回される感覚がやまない。至る所ですべて煮詰まっている。 とにかく苦しかった。 やがてぴたりと規則正しく動きを止めた手の持ち主が、仰向けに横たわる私へとふいに微笑んだ。 「やめないよ?」 声色は優しく、ともすれば可愛らしいものであったが、決定事項のように凛と告げられている気がする。 弱り果ててはいるものの拒絶の意志はすっかり萎えていたから、念を押される理由がいまいち掴めず、うんともすんとも言えないでいれば、熱い掌が硬直の解けない指をさすった。 つい、あ、と呟いしまう。 外気に触れる面積の多くなった肌に抗うよう、お腹の上に置いてけぼりの両手が鎮座しているのだ、拒まれているととられても仕方ない。 けれど慌てふためいて外すのも何かおかしいだろう、そもそもどのくらいの速さでどければいいの、などと考え出したら最後、一切動くことが出来なくなった。 喉さえ震えない。当然、息苦しさは増していくばかりだ。 見かねたらしい精市くんが、私の手の甲を押さえていた自分の指を浮かせ、じんわりと汗ばんだ額へとくっつけてくきた。そのまま髪の生え際をなぞるみたく、丁寧に撫でてくれる。 頭のよろしくない私にすらわかる、慈しみに溢れた手つきだった。 知らず寄っていた様子の眉間の皺を摘んで、随分苦しそうだ、なんて言い落としながらこわばりを溶かす。 やっぱり声の出せない私はというと、浅い呼吸で触れる熱をやり過ごし、こめかみでけたたましく喚いている血管の軋みが聞こえやしないかどうか、心配ばかりしている。 音もなくはらわれた前髪が静かに流れ、精市くんの指先はくだり始めていく。 額から耳、顎の関節。 頬、骨の下にある窪み、おとがい、首。 ひとつひとつを確かめるような仕草に、思わず目を細めてしまう。 くすぐったいけれど、それだけじゃない何かに引きずり込まれる錯覚が少し怖かった。 ラケットを握り続けたかたい掌が私を辿る。 首筋に行き、鎖骨を掠め、肋骨と肋骨の間をしとやかに縫う。 自分にはなんとも心許なく映る丸みの付け根に触れられた瞬間、皮膚と肉の下にある心臓を握りつぶされたのではないかと思うくらい、えもいわれぬ衝動が体中をくまなく駆けた。 次いで、肌があわ立つ。 剥き出しになったところにある指は、なだらかな曲線の始まる手前をするりと描き、隙間なく収まってしまう。 最早呼吸がどうだとか、考えている余裕など消え失せた。 できない。息が。 「、速すぎ。もう少し落ち着かないと、寿命が縮むんじゃない」 目を回しかけている私へ、恐るべき事だけれどいつもとそう変わらない音色が寄越され、そのどこかのんびりとした物言いに不意を突かれた拍子、やっと酸素を吸い込んだ。 あえぐ脳まで行き渡り、視界も心持ちクリアになっている。 「………な、にが」 おまけにあれほど鳴りを潜めていた声まで出るのだから、驚きだ。 傍らの精市くんが、ゆっくりと瞳を和らげた。 「心臓」 この状況で心拍数の上がらない人間がいたら見てみたい。 大体、落ち着かせようと心掛けて落ち着く器官でもない。 憎まれ口を叩くより早く、こちらの反応などお構いなしと言わんばかりに遮られる。 「俺もだけどね」 さっさと切った口調だった為、順応が遅れ、数秒の拍を置いてからの返事になった。 「…………なんでそんな嘘つくの」 いつも通り過ぎるほどいつも通り、彼は笑って否定をする。 「ひどいな、嘘じゃないって」 「嘘。絶対嘘。嘘に嘘重ねないでよ、こんな時に」 「だったら、確かめてみるかい」 頑なな私に対し、限りなく距離のなかった体を少々起こした精市くんが吹っかけてくる。 真っ暗とまではいかないが、カーテンを閉めているおかげで常と比べ明かりの乏しい室内、影が彼の輪郭と体を包んでおり、わずかな光がもたらす細い線で以って、その存在を確かめるしかなかった。 じかに触れている掌は一度たりとも動かない。 精密な機械のよう、正確だ。 しかし仕草に棘はなく、身ひとつ起こすのだって柔らかに優雅なのである。 暗に冷静さを失っているなどと自ら仄めかしているが、私なんかがはいそうですかと肯定しようものならどこかの誰かに叱られそうなくらい、静かな彼の唇がほころんだ。 「さわって」 今度は、なにが、と尋ねるまでもなかった。 呼吸を思い出した事で酸欠から解放されたからなのか、精市くんの指示が的確だったからなのか、それとも短くはない付き合いが教えてくれたのか、どれが正しいのかはわからないけれども、自分の胸元に置かれた熱を思えばどうすべきかなど一秒で理解が出来る。 私は押し黙った。 息を吸い、肺が膨らむ都度、つらなる精市くんの手も上下している。 ここが学校だったり、こんな状態でなかったら、絶対、確実に、100%、嫌がる私の腕でも何でも強引にひっぱって触らせるくせに、何の行動も起こしてこない。沈黙に合わせ、こちらの一挙一動を見守るだけなのだ。 もう蹴っ飛ばしてやりたくてしょうがない。 単に鈍感という話ならばまだ良い。 今、私がどんな気持ちでいるのか、わかっているはずなのに顧みてはくれない。肝心な時はいつもそうだ。 ずるい。酷い。優しくない。思い遣りに欠けている。根性悪。意地だって悪い。 存分になじった所で許される場面だとすら思うのに、ありとあらゆる罵りをまとめてぶつけられるのは、いつだって心の中だけだった。 どうしても精市くんに勝てない私は、お腹にあった腕をゆるゆると持ち上げる。 こちらに下りている右腕と交差しないよう、使いにくい左の手で心臓の場所に見当をつける。 学校指定のネクタイが失せ、第三ボタンまで外されたシャツに近づくのは相当の勇気を要したが、なんとか振り絞り露になった胸まで辿り着いた。 皮膚は熱く、しっかりと張った筋肉が硬い。 わざわざ言うまでもないけれど、自分のものとはまるで違っていた。 決して是非にとは触れられたくない急所であろうに、だらりと力を抜いた神の子はされるがまま、無調法な行いに天罰を下したりしない。 私はといえば、掌を重ねてしまってから、そういえば心臓ってどっちにあるんだっけ、などと困惑し出す間抜けっぷりを発揮し、左右上下にぺたぺたと忙しなく指先を動かしている。 三度ほど同じような所を惑っている途で、精市くんがふと息をついて、何か耐えるみたいに目蓋を閉じたので、くすぐったかったのかもしれない、余計慌ててしまう。 一旦離し、今まで触れた事のない、思い当たる箇所へと着地をさせたのが、偶然にも正解だったらしい。 平らになった手の内へ、狂おしい振動が伝わる。 こめかみや耳の奥で感じていた早さと同等、もしかするとそれ以上、激しく脈打つ音だった。 思わず息を呑んだ。 呼応し、私の心臓も声をあげる。悲鳴のようでいて、喜びに沸いている。 喉が渇く。 汗が滲む。 ――どうしたらいいのかが、わからない。 「……嘘じゃなかっただろう」 いつの間にか両目を開け揃えた精市くんが語尾に、ね? とでも加えてきそうな言い草で明朗に呟ききった。 こんなに鼓動をはやめておきながら、何故そうも平然としていられるのか、驚愕に近い気持ちで己の手と彼の胸元を見つめていると、 「平気そうに見えた?」 鮮やかに見破られ、元から失っていた言葉を更に打ち消されてしまう。 「だっ……だって…」 「フフ、当たりだ」 「だって! そんな風に、いつもみたく喋ってるから、全然…」 「平気じゃない」 柔和な声が低く落ち窪む。 はっと見遣った先で、痛いくらい正直な視線とかち合った。 「、君の所為だってわかってるの。一つも平気じゃないよ。緊張で吐きそうだ。まったく、情けなくて嫌になるね。神の子が聞いて呆れると思わないか」 躊躇いもなく畳み掛けられては、付け入る隙も答える時間もない。 彼が片肘を深くついたおかげで、ベッドのスプリングは些細な音を鳴らして撓った。 影が落ち、距離が縮まる。 くっつけたままの互いの掌の下で、相変わらず心臓が騒いでいた。 「でも、俺はやめないよ。さっき同じ事言ったし、いちいち繰り返さなくていいかと思ったけれど、やっぱりやだとか聞いてませんでしたとか言われたら、困るからさ」 言わない。 零せぬ代わりに、ぱくぱくと口が空回る。 精市くんは私を見ていた。 じっと、つぶさに、いつも通りの表情で、いつも通りじゃない眼差しで。 「そうかなあ。の方こそ、ごめん全部嘘でしたって言いそうだ」 言葉は通じていても、そこへ籠められた気持ちまでは明確に伝わらないらしい。 この期に及んで小首を傾げながら微笑むのだから、彼という人は手に負えないのだ。 その証拠に、やっとの思いで形にした絶え絶えの返答にも、顔色を変えなかった。 「い…言わない…」 「だったら嬉しいな。俺だって、無理強いしたいわけじゃないからね。まあどっちでもいいんだけど」 どういう意味と問おうとした声帯は震えず、指先がわななく。 ひきつった喉は空気ばかりを無駄に行き来させ、何もかも上滑りした。 「嘘か本当かなんて関係ない。……もう、ちゃんとさわりたい」 シャツと素肌の間に滑り込む熱は、抵抗らしい抵抗を許してくれなかった。 心臓の上から離れた指が下着の縁をなぞり、そうして膨らみを撫でられると、体の中がひくつく。 待ってと留めようとした両手は成すすべもなく押さえ込まれ、羞恥に耐えられず背けた顔も捕らえられてしまい、名前を呼ぶ事さえ叶わない。 眼差しと同じよう、いつも通りじゃない性急なキスに胸を突かれ、強張りが抜けていく。 思い出したみたく時折離れるくちびるの間で漏れる声は、自分のものとすぐさま悟れぬほど甘ったるく何の力もなかった。 聞いたことのない精市くんの息遣いに、首の後ろがざわめいている。。吐息まじりで呟かれれば、奥底に熱が籠もってどうしようもない。頬にあった掌が耳横へ滑り、背筋を通り道にして伝い、つよく腰を抱きすくめられては応じる以外、わからない。回せない腕の代わりに、乱れたシャツの襟を掴んだ。 少し弓なりになった体の角度がそういった隙を作ったのだろう、布一枚越しで甘んじていた彼の指先がわずかばかりブラの裾を持ちあげ、肋骨からすぐ上、やわいところの肌に触れる。体の外と中身が裏返るんじゃないかと思った。到底意味のない言葉をあげかけ、だけど甘噛みされている唇では何も紡げない。 ――と、ほぐれ、溶ける頭に、ほんの一瞬の間。 しかし、忘れきっていた抗いを取り戻させるには充分だった。 どうしよう。 だめ。 白く染まりつつあった脳裏に二言浮かんだと同時に、呼吸を求めた唇が離れていく。 今しかない。 決心した私は、握り締めるだけだった両手を素早く口元へと引き戻した。 「ま、って、ちょっ、と」 でいいから。 言うつもりが、むずがゆさと戦うのが精一杯、最後まで告げられない。 掌の内側で声が籠もる。 胸の下半分まで侵入していた指を止め、けれど詰めた距離はそのままに、彼は目をしばたたかせた。 「……うん?」 「ごめ、ちが、う、嘘じゃ、な、い、そうじゃ、なく、って、あの……、ふ…っ」 どうしよう。まずい。堪えられなくなってきている。こういう時どうすればいいんだっけ。やだ。それだけはやだ。ていうかありえない。よりにもよって今、こんなの、したくないのに。我慢しなくちゃ。 ぐるぐると空回る思考と裏腹に、切羽詰ったものが込み上げ、焦りだけが募っていく。 鼻と唇とを押さえ目を泳がせる奇妙な行動に、精市くんが手を離し、体勢を起こしかけた、その時。 ふえわっくしょい! 文字におこすとしたら、そんな感じだろう。 するにしてもせめて、くしゅん、とか控えめなものだったらまだ救われたのだが、どう頑張っても懸命に見方を変えても、全くもって可愛くないくしゃみだった。その上、うちのお父さんみたくおっさん寄りっぽい。 私は瞬時に絶望した。 もう死にたい。無理なら消えてなくなりたい。この人の中にある私に関する記憶を綺麗さっぱり失くして貰ってから空気になりたい。 リアルに血の気が引く音を聞きながら、上半身ごと横に逸らして硬直している時間は異様に長々感じられ、それがなけなしの希望をも断ち切っていく。 恐ろしくて精市くんの方を見る事が出来なかった。 息も止めてうちひしがれる私の鼓膜に沈み込むベッドの音がぶつかり、我に返ると後頭部の近くで額を押し付けている姿がある。 起き上がりかけていたはずの体はすっかり私を覆い、見えずにいた背が視界の下方に広がってい、ついでに肩は小刻みに震えていた。 これは、つまり、あれだ。 過程と現状を加味し導かれた結果をまとめるのと、精市くんがぶはっと吹き出したタイミングは、ほとんと被っていたのであった。 いつぞやも味わい繰り返したような光景に、恥ずかしいやら腹立たしいやら悲しいやらで、爆笑のわけを理解していても突っ込めない。 「……っはは! あはは! いや、俺こそごめん、でも、ごめ…ッフ、く…っは」 その内咳き込みそうな勢いで耐えたり笑ったりを行き来する精市くんの声が近い。 ちょうど私のお腹前あたりにつかれた左の肘が、ぶるぶると震えていて、言葉よりも如実に心境を物語っていた。 言いたい事は、色々ある。 あるにはあるが、今回ばかりは言える立場じゃない。 余程ツボに入ったのか類を見ない長さで堪えている人は、あらゆる部分をどう切り取ろうとも間違いなく、心から笑っていた。仕草、声色には何の蔭りもない。だがまあ当然、色気もなかった。 常ならば眉間に皺の寄るシーンだろう、しかし私の顔面は凍りついたよう動かず、目蓋の裏がやけに腫れぼったくなる。 「…………いいよ、もう。私が悪いんだから。すいませんねムードのひと欠片も残さずぶち壊しちゃって」 全部吐き出してしまってから、とてつもない自己嫌悪に襲われた。 もうやだ。 なんでいつもこうなんだろう。 あそこでくしゃみだって絶対したくなかったし、やってしまったとしても、もっと殊勝に落ち込むとか素直に謝るとかすればいいのに、可愛くない反応しか出てこず、こういう態度はやめよう、気をつけよう、何度反省したって上手く出来ない。 口元あたりで回るだけの言葉は捻くれて、曲がった音になっている。 それが余計にみっともなかった。 じわと目のふちに水滴が溜まり零れそうになったので、顔の下半分で留まる手をそのままに、シーツへと沈ませ寄せる片頬が心なしか冷たい。わいてきた涙と反発し合うみたいな温度差だ。 乱れ流れる髪を直すでもなく、息絶える事ばかり願う私の耳朶へ、甘い声が降る。 「うん。だけど、それが俺達らしくていいね」 先程とは毛色の異なったものを含んだ笑みだ。 まだ名前くらいしか知らない、何年か前だったら気づかなかっただろうけれど、今の私は知っている。精市くんが嬉しい時にころがす声音だった。 ちょっと本気で泣きそうになる。 不意にこめかみが揺れた。 無造作に広がった髪のひと房をよける指に釣られ、視線と顔の角度を揃って上向きにさせた私の額へ触れる人。 掌ぜんぶを使い、乱れを掻きあげ、撫で伏せる。 やわらかく、優しさに満ちた手つきだった。 「泣かない泣かない。大丈夫、くしゃみをしていてもは可愛いから」 親指で走りかけている涙を丁寧になぞり、甘やかす様子は、まるで子供に対する扱いそのものだ。けれど何故だか悲しくなったり、腹が立たなかったのが腹立たしい。 些細なれども調子を取り戻した私の眉間に皺が刻まれる。 「…………精市くんのアホ」 笑う彼の吐息が緩む。 「あれ、今日はバカじゃないんだ」 「……じゃあバカ」 「増えちゃった。せめてどちらか一つにしてくれないか」 「……どっちもだし」 「そう」 振ってきたくせに、返しは淡白。 目蓋に張り付いた水の残滓を乱雑に拭おうとして、押し留める指先に阻まれた。綺麗な弧を描き、ゆっくりと一撫で。 もう片方が拭けないから、こっちを向いてくれないか。 囁く言葉が近い。 乾いたから、いい。 言うが早いか、筋張った指の甲が頬を滑り、求めるように擦れた。 精市くんは左肘をつけたままだったから、私達の間にはささやかな隙間しかなく、縒れた肩と裸の胸が触れるか触れないかのところで立ち止まっている。 体温の薫りは、いつもよりずっとそばにあった。 「好きだよ。だから、俺のものになってよ」 密やかな呼吸に熱がまじり、私の中をひたしていく。 溢れそうになるなにかを抱きとめて、ただただ必死に息をする。 逸らしていた半身を揺り戻し、虚勢のしるしにちっとも乾いてなんかいなかった片目を拭って、情けなくも詰まっていた鼻をすん、とすすった。 「………うん。なる」 もっと言い様があるだろうとか、なにか少し気の利いた事を付け加えられないのかとか、他ならぬ私が叱咤したくなる、言葉を尽くしてくれた精市くんの足元にも及ばない、稚拙極まりない告白だったけれど、時折採点方法がおかしい神の子は罰など与えず、まなじりをひたすらに溶かすだけだった。 そうして微笑む。子供みたく、嬉しそうに。 これからの行為は全く子供のすることじゃないくせに、アンバランスだ。 だけれど、多分、同じはやさの心臓を持っているから大丈夫。わけもなく信じる私は、精市くんの鼓動に手を当てながら、まどろむように目を閉じた。 鼻をくすぐるにおいが恋しい。さわられると、心ごと狂おしくなる。 気持ちの名前はぼやけて、区別がつかなくなっていく。悲しくもないのに視界がふるえた。 彼の熱が、痛くて近い。 |